さて、今回も歯磨きをする目的について、歯科衛生士 辰巳からもお伝えします。

皆さんはすでに、“目的を持った歯磨き”をされていると思います。

ご存じの通り、歯磨きをする大きな目的は、“プラーク(歯垢)”を落とすことです。

人によって、日常的に歯磨きをする状況は様々だと思います。

椅子に座って磨いたり、鏡の前で磨いたり、会話やTVを見たりしながら行う“ながら磨き”の場合もあると思います。

そこで重要なのは、目の前の状況や会話、TVにだけ集中するのではなく、歯磨きしているお口の中にもしっかり意識を向けることです。

一般的には、“プラーク”と呼ばれることが多いですが、プラークは、“細菌性プラーク”、また“バイオフィルム”とも言います。

要は、生きた細菌のかたまりです。

プラークの中には、生きた細菌がウヨウヨしているのです。(位相差顕微鏡で生きた細菌を見ることができます。)

そして、その生きた細菌が、長期間歯肉に接する歯の表面に付着していると、“プラーク性歯肉炎”という、歯肉の病気になります。

辺縁歯肉に炎症が起こる

プラーク性歯肉炎とは

プラーク性歯肉炎とは、歯肉辺縁に存在する細菌によって発症する歯肉の炎症です。

臨床所見としては歯肉の発赤、浮腫、出血、疼痛、腫脹などがみられます。

分かりやすく言うと、歯肉が赤くなったり、歯肉がブヨブヨしたり、歯磨きの時に歯肉から血が出たりします。

歯肉炎は、炎症が歯肉に限局しているのが特徴で、歯磨きなどのお口のケアを徹底し、プラークを除去、あるいは減少させることによって、改善します。

歯肉炎を改善したり、健康な歯肉を維持するためにも、歯磨きは重要なのです。

そして、それを実験的に行って、プラークと歯肉炎の発症との関係を明らかにしたのは、Löeらによる、『Experimental gingivitis in man』です。

1965年に発表された、かなり古い論文ですが、今回はこちらをご紹介します。

Experimental gingivitis in man(実験的歯肉炎)

この研究は、プラークにより歯肉炎が発症すること、また、歯磨きなどのお口のケアがプラークの量やプラーク中の細菌叢の変化に関係していることを明らかにしました。

現在は、プラークが歯肉炎に関係することは歯科医療従事者であれば誰もが知っていますが、それにはこの研究が、大いに寄与したと言われています。

研究方法は、健康な歯肉を有する12名(平均年齢23歳、男性10名)に対して、歯磨きなどのお口のケアを全て中断させ、実験的に歯肉炎を発症させるというものでした。

被験者全員が歯磨きを中断してから歯肉炎が起こるまで、それぞれの間隔で検査が繰り返されました。

そして、歯肉炎の発症が確認された後、歯ブラシなどを用いて朝晩2回ずつお口のケアを再開し、歯肉炎が改善した時点で実験が終了となりました。

歯肉炎の評価には歯肉炎指数(GI)、プラークの評価にはプラーク指数(PlI)が用いられました。細菌叢の変化も観察されました。

実験期間中のプラーク指数(PlI)の変化

実験開始時の平均PlIは0.43(最低値が0、最高値が3なので、0.43はプラークの付着がない状態)で、歯磨き中断期間の最終日にはPlIは1.67(軽度のプラーク付着)まで増加しました。

そして、歯磨き再開後はPlIが低下し、0.17(プラーク付着なし)となりました。

歯磨きを中断することでプラークが増加し、歯磨きを再開することでプラークが減少した。

実験期間中の歯肉炎指数(GI)の変化

実験開始時の平均GIは0.49(最低値が0、最高値が3なので、0.49は健康な歯肉)でしたが、歯磨き中断期間の最終日にはGIは1.23(軽度の歯肉炎)まで悪化しました。

そして、歯磨き再開後はGIが低下し、0.11(健康な歯肉)となりました。

歯磨きを中断することで歯肉炎が増悪し、歯磨きを再開することで歯肉炎が改善した。

実験期間中の細菌叢の変化

実験開始時には細菌数は少なく、球菌および短桿菌が優勢でした。

しかし、2~4日後から線状菌と長桿菌が優勢になり始めましたが、まだ球菌も多くみられました。

そして、6~10日後になると、ビブリオやスピロヘーターが観察されるようになりましたが、球菌、桿菌、線状菌も多いという結果となりました。

歯磨き再開後の最終検査時では、実験開始時と同じく、球菌と短桿菌が優勢となっていました。

歯磨きを中断することで細菌が増加し、細菌叢も変化した。歯磨きを再開することで細菌が減少し、細菌叢も改善した。

このように、プラークは歯肉炎の原因となるため、歯ブラシなどを用いてプラークを除去することが、歯肉炎の改善、予防に役立つことが明らかとなりました。

歯肉炎は歯周炎の前段階

また、“歯肉炎”は、“歯周炎”の前段階と考えられています。

小児では、歯肉炎の状態から歯周炎に進行することはほとんどないのですが、成人では、歯肉炎を放置すると、炎症が歯の周りの組織にまで波及し、歯周炎に進行することがあります。(歯肉炎のまま持続することもありますが、長期間放置すると、大部分は歯周炎に進行していきます。)

健康な歯肉を維持するためにも、毎日のお口のケアが重要です。

是非、プラークを落とすための歯磨きを実践しましょう。

また、お口にあった歯ブラシの選び方や、歯磨きのテクニックについては、歯科衛生士に相談してくださいね。

【参考文献】
1)Löe H, Theilade E, Jensen SB. Experimental gingivitis in man. J Periodontol. 1965; 36: 177-87.
2)日本歯周病学会. 歯周治療の指針. 2015